入選作品 五千円

ラブレター

読んだ本・『君にさよならを言わない』七月 隆文

書いた人・みどりくん

じいじ、先月僕は15歳になったよ。今年はじいじからお誕生日おめでとうっていう電話が来なくてちょっとさみしかった。久しぶりにじいじの声を聞きたかったのにな。
 

この前本を一冊読んだんだ。そしたらじいじの事を思い出して手紙を書きたくなった。僕が読んだ本はね、事故がきっかけで幽霊が見えるようになった明くんっていう男の子の物語。じいじと同じ名前だね。明くんは未練を残してこの世にとどまっていた幽霊の頼みを聞いてあげて、魂を成仏させてあげるんだ。

僕は残された人の悲しみしか知らないけど、この世から去る人も悲しみを残して逝くのは辛いんだね。そうだよね、どんなにやり直したくてももうできないんだもんね…



人間って不思議だよね。この世に生を受けてから、ひたすら「死」に向かって生きてる。自分にいつ訪れるかわからない「死」に向かって。自分が死ぬまでに近しい人の死に一度も出会わない人も中にはいるだろうけど、たいていの人は誰かの死を経験しながら生きていく。そうしながらなんとなく心の準備をしていくのだろうか。自分がこの世から消える時の心の準備を。じいじもそうだったの?

 

去年の僕の誕生日を僕はきっと一生忘れないよ。朝ばあばから電話がかかってきたけど、それはいつものお誕生日おめでとうっていう電話じゃなくて、「じいじが今朝息をひきとったよ、とても穏やかだったよ。」っていう電話だった。じいじの病状からして、もう長くはもたないって言われていたから少しずつ心の準備はしていたけれど、いざその日が来るとやっぱりぴんと来なくてさ。もうじいじに二度と会えないなんて。

でも僕じいじとの約束をちゃんと守ったよ。「男の孫はお前だけだから、お姉ちゃんたちの事を頼んだぞ。じいじになにかあってもお前は泣かないでしっかりしてくれよ。男の子だろ。」って言ってたでしょ?僕、皆の前では泣かなかったよ。一人の時はちょっぴり涙が出ちゃったけどさ。

じいじは僕にその約束を思い出させたくて、僕の誕生日に旅立つことを選んだのかなって思ったから。





じいじがいなくなってもう1年が過ぎたんだね。皆元気にやってるよ。





ばあばはじいじが病気になってから中断してたダンスをまた始めたよ。先週はダンス仲間と“はとバスツアー”に行ったみたい。そうだ、ばあば携帯をスマホに変えたんだよ。今年の僕の誕生日には僕にLINEでお誕生日おめでとうのメッセージとスタンプを送ってくれた。パソコンも勉強していて、先月1周忌の時にじいじの写真付きの封筒を作って孫たちにおこづかいをくれたよ。じいじからだよって。大事に使うからね。



パパは相変わらず仕事が忙しい。仕事場がじいじの家の近くだったりするときは、じいじがいたらじいじのところにお酒飲みに行くのになぁって言ってる。パパは自分のお父さんが早くに亡くなってるからじいじのことを本当のお父さんみたいに思ってたんだって。お葬式の時にそう言って泣いてた。あと5年したら、僕がじいじの代わりにパパのお酒の相手になるから安心してね。



ママはじいじが死んじゃったら私も死んじゃうなんて言ってたけど、なんだかんだ元気にしてるよ。ママはじいじが大好きだったもんね。今でも時々思い出しては少し泣いちゃうことがあるけどそれは許してあげてね。



お姉ちゃんはじいじがずっと気にかけていた大学受験をやり切って、第1志望の大学に入ったよ。この大学はお姉ちゃんにとっては無謀な挑戦だったけど、「じいじとこの大学に入るって約束したから絶対受かる!」って言って気合で受かっちゃった。約束の力ってすごいね。



僕は4月に中学3年生になったよ。もうすぐ部活の引退試合があって、それが終わったら高校受験まっしぐらだよ。進路のことを考えるとちょっと不安だけど、「お前はじいじに似て頭がいいからな。」ってじいじが言ってたことを信じて頑張るよ。





毎日の生活の中にじいじとの思い出を見つけると心が温かくなる。じいじは今でも僕たちの側にいるんだなって思う。僕たちにたくさんの言葉を残してくれてありがとう。



僕、レンタルしてたじいじのベッドを業者に返す日に、ばあばを手伝おうと思ってじいじの家に行ったんだ。ベッドを片付ける前に、じいじが最後に見た景色を知りたくてベッドに寝てみた。そしたら僕たち孫4人が小さい時にじいじのお誕生日プレゼントにって描いたじいじの似顔絵が真っ先に目に飛び込んできたよ。じいじが最後に見たのが、この世での最後の記憶がこの絵だったら嬉しいな。



こればっかりはいつだかわからないけど、僕がじいじに会えるのはきっとまだまだ先の事だと思う。僕はその日が来るまで一生懸命に生きるよ。それが僕を愛してくれたじいじへの礼儀だと思うから。じいじが待っていてくれると思うと不思議と死ぬのも怖くなくなるね。もしかしたらこれが心の準備ってやつなのかな。





また手紙を書くね。じいじ、大好きだよ。


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