入選作品 五千円

もうひとつの冒険記

読んだ本・『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル ワールドアルティマニア』スクウェア・エニックス

書いた人・ルギーろ

ゲームを買うきっかけになった攻略本がある。

攻略本とは、基本的に対象のゲームを遊んでいる人に向けて販売されている書籍のことだ。
順序が逆のように思えるがこれには理由がある。

攻略本を買う人が求める要素といえば、進行マップ・イベントリスト・敵のデータやアイテム一覧・設定資料などだろうか。私もこの中に漏れずアイテムや設定資料めあてに攻略本を手に入れていた。ただすこし違うのは、私は”対象のゲームの”設定資料ではなく、設定資料”そのもの”を見ることが大好きだった点だ。

その日私は本屋の攻略本コーナーで暇を潰していた。持っているゲームの新しい攻略本が出ていないか探してみたり、表紙のデザインが好みでとりあえず見てみたり。そんな中でなんとなく手にとったのが、今回感想文を書くに思い至った本だった。
「これもFFシリーズなんだ」
そんな感じの第一印象だったと思う。物語のあらすじは、世界中に広がる瘴気から身を守るためにはミルラのしずくというアイテムが必要で、それはダンジョンの奥深くにしか存在しない。そのため人々はキャラバンを結成し、各地のダンジョンを巡るというもの。プレイヤーはキャラバンの1人で、用意された種族・性別・見た目の中から好きなものを選択できる。

基本的な情報をおさえた後は世界観の設定を追っていく。クリアまでの簡潔なチャートだけではこうはならないであろうぶあつい本の重みは、それだけでわくわくした。
世界の歴史・4つの種族の説明・訪れる各地の街のコンセプトや特産物。他にはイベントや手紙の内容などとにかく盛りだくさんだったが、そこまで見る前に私は本をレジに持っていった。そして財布の残高をおそるおそる確認して、併設しているゲームソフト売り場に直行する。早い話、さっさと買って帰って遊びたくなったのだ。

ゲームは当時の私には少し難しかったが面白かった。ただそれ以上に、私は攻略本の設定資料を読むのに熱中した。ゲームをして、休憩中に設定資料を眺めて、ゲームをして、宿題をして、また設定資料を眺めて、寝る前にもう少し読んで、といった生活がしばらく続いた。

そんなある日、ゲームをする手が止まった。
止まったというか、分からなくなったというか。昔からの癖なのだがふと興味を失うことがあり、その瞬間が急に来た。これを機に私は攻略本を読むことに専念する。今までは設定資料のイラスト中心に見ていたのが、インタビューなどの文字だらけのところを読むようになった。そして本の大半を読み終えた頃、あるページに目を留めた。

Memories like the Sunshine.
ゲームの世界を舞台にした書き下ろし小説。ミルラのしずくを集めるため、キャラバンの仲間たちとティパの村を旅立ったエリンというクラヴァットの少女の話。
ぱらぱらとページ数を確認してみる。文字がぎっちりで結構多い。でも1章ずつ読んでいけば大丈夫そうだ。そう判断して私はエリンたちの話を読み始め、大きな衝撃を受けることになる。

大人ではなく育ちざかりであるエリンたちがダンジョンへ向かう理由。狭い安全地帯の中での、キャラバンの仲間との人間関係への危惧。異種族間の軋轢。魔物に対する疑問。思い出。気付けば夢中で読んでいた。なんとなくゲームをしていた時は考えたこともなかった、けれども言われてみれば確かにと思える設定と共に転がっていく物語。

いくら世界を知っていても、その世界を体験したことにはならない。
私は設定資料を読み漁るだけでその世界で生きるということを想像したことがなかった。つまるところ想像力がなかった。この時受けた衝撃は相当のもので、頭の中を何かが目まぐるしく動き回る感覚を今でも覚えている。

花が好きな穏やかな性格の少女が、村の外の世界を知るため手から如雨露をはなし盾を掴んだ。自分を奮い立たせて剣を握り、せいいっぱい駆け抜けた7年の冒険の記録。ゲームの世界を映した小説の中で、彼女はたしかに生きていた。

本を閉じると、私はゲームを再開した。
実力不足もあり結局クリアは出来なかった。けれども、私はゲームの世界について考えるのが楽しくなった。
村の命運を握っているのに1人で旅をして大丈夫なのか。果たしてユークに真の姿はあるのか。異なる種族の間に生まれたハーフはどう暮らしているのか。それから、それから。

PC・スマホ・据え置き型ゲーム機に携帯ゲーム機。ハードは変われど私は今もゲームが好きで、いわゆる”ゲー無”と呼ばれる中身が無いと揶揄されているものも好んで遊んでいる。世界とキャラクターがいればいくらでも想像の余地があり、物語は転がっていく。それを教えてくれたのがこの攻略本であり、小説だった。

本は今では本棚の隅ですっかり色褪せてしまっている。
その中にあるもうひとつの冒険記。
今でもたまに、私は彼女の旅路を思い出す。


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