入選作品 五千円

逃げた話

読んだ本・『凪のお暇』コナリミサト

書いた人・壱宮

「凪のお暇」という漫画を読んだ。空気を読んで、読みすぎて、疲弊した凪が何もかもすっぱり捨てて新しい生活を送ろうとするお話だ。裏表紙のあらすじのところには、「リセット女子の断捨離ラブコメ」と書かれていた。

凪は空気を読みすぎていつも損な立ち位置に立っていて、唯一心の支えになっていた彼氏にもモラハラまがいの仕打ちを受けている。そんな現状から脱するために、仕事をやめて人間関係もすっぱり切って、持っていたもののほとんどを捨てて全然違う場所へと引っ越す。
この漫画を読んだのは、私もちょうど仕事をやめて遠いところに引っ越すと決めたくらいの時期だった。時期が時期だけに、凪にめちゃくちゃに親しみを持った。

社会人になってから、「どうして社会に出たらこんなに不自由にしか動けないんだろう」とよく思っていた。
飲み会では先輩のお酒の減り具合を見ていなきゃいけないらしいし、うまく話を回さなきゃいけないらしいし、ネタを振られたらそれに付き合わなきゃいけないらしい。仕事中でも、中身のない精神論を30分間語られてもニコニコ頷かなきゃいけないらしいし、自分の営業目標数値を社長に勝手に上げられても「かしこまりました!」とハキハキ答えなきゃいけないらしい。
全部面倒だと思う。だけれど、社会人になったらそれくらい空気読んで動かなきゃと先輩に言われてしまうと、「はい」以外言えなくなってしまう。何故なら周りに嫌われたくないし、変に悪目立ちをしたくないから。いやだいやだと思いつつも私も凪みたいに空気を読んで、でも家に帰ると「あんなのおかしくない?」と思うような日々。そればかり。

きっかけは忘れたし、特に大きなきっかけがあったわけではないのだと思う。ただ色々と小さい「あんなのおかしくない?」が積もり積もって、ある日何かのタガが外れたのか、上司に「仕事やめます」と言った。思いのほか引き止められたり、叱責されたりはしなかった。「やめます」と言えるまで、ずっとモヤモヤしていて、土日も仕事のことばかりを考えて、私は一生こんな生活を続けていくんだろうかと思っていた。でもたった一瞬勇気を出したら、案外あっさりとそんな生活が終わることが決まった。
その日の仕事帰りはとても気分が晴れやかで、空気が凄く美味かった。この妙に居心地の悪い何かから逃れられることが嬉しかった。私もリセット女子になったのかもしれない。退職まで期間はあるし、完全なリセットはまだできていないけれど、それでも、だ。

ちなみに私はこのあとどこに就職するのか、引っ越し先の家はどうするのか、そういったことが一切決まっていない。凪のお暇で言えば、1話目の残り数ページといったところ。
これからきっと、ぞっとするような出来事がたくさんあるのだと思う。お金とか、新しい仕事とか。あと周りの目とか。今まで相談していた人への報告とか。
また先のことや見えていないことまで気にして、自分で自分の首を絞めていくことを、私は今も無意識にしてしまっている。いやだな、良くないなと思いつつも考えてしまうのは、いやなはずの考えが自分の中に染み付いてしまっているのだろう。これって、いつになったら自分の中から無くなるのかな。社会に出続ける限り、ずっとこのまま?いやいや、そんなことは……。
これからもずっと不安を抱えて生きていくんだろうか。そう思うと、新生活(といえるほどフレッシュなものではないけれど)がかなり心配になる。
けれどそんな時には、凪のお暇を読みたい。凪はどんな壁にぶち当たってるんだろう。どう自分を奮い立たせているんだろう。今凪は、何をしているんだろう。それを知って、ちょっとでも勇気をもらえればいいな、と思う。


凪のお暇 1 (A.L.C.DX)
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