入選作品 五千円

逃げるは恥だが役に立つ

読んだ本・『雨の降る日は学校に行かない』相沢 沙呼

書いた人・青い鳥

懐かしいなぁ。この本を読み終わった後、真っ先にそう思った。この本の中にはたくさんの私がいた。中学生の時の私。そうそう、あの頃の私はささいなことにも悩んで、苦しんで、生きているのが嫌になって。どうしたらいいのかわからないっていう言葉がぴったりだった。



中学生の頃、一時的に学校に行けなくなったことがある。いじめにあっていたわけではない。友達がいなかったわけでもない。きっかけは合唱コンクールだった。



私は小学2年生の頃から近所のお宅でピアノを習っていた。自分からピアノを習いたいと言ったのに、実際始めてみると全然ピアノに向いていなかった。とにかくセンスがなかった。その教室では、ピアノのレッスンをした後に歌のレッスンもしてくれたのだが、私は歌うことは大好きなので、それを楽しみに行っていたようなものだった。また、始まる前と後の先生とのおしゃべりも大好きだった。そんな感じだったから、中学生になってもピアノはちっとも弾けなかった。

中学2年生の時、クラスで合唱コンクールの指揮者と伴奏者を選ぶ際、何を思ったか担任の先生が伴奏に私を指名した。私はクラスにいるかいないかわからないくらい地味な子で、恐らく担任の先生は私を表に出して自信をつけたかったんだと思う。もちろん私は断りたかった。でも「嫌です」というその一言がどうしても出てこなかった。今考えても、なんで言えなかったんだろうと疑問でしかない。

その日から猛特訓が始まった。毎日一生懸命練習した。でも、ピアノが苦手な私にとって、合唱曲の楽譜は難しすぎた。どんなに頑張ってもどうしても指示された速さで間違えずに弾くことができず、心が折れてしまった。学校の音楽の授業が恐怖になった。



 朝が来るのが怖かった。学校に行くのが怖くて仕方がなかった。ある日、母にお腹が痛いと嘘をついてトイレにこもった。その日から学校に行かなくなった。



 母は大病を疑って大きな病院に私を連れて行ったりした。診断の結果は自律神経失調症。私は子供ながら、さぼり病にもそんなたいそうな病名がつくのかと思った。実際自分は絶対に病気なんかじゃないと思っていた。本当は腹痛も頭痛もめまいもなく、ただただ学校に行きたくないってだけだったから。

こうして合唱コンクールの日が近づいていった。私のクラスはもう伴奏を諦めてアカペラで練習しているとクラスメイトが教えてくれた。優しい私のクラスメイトは、「だからこっちのことは心配しないで早く病気を治してね」と連絡帳に書いてくれた。先生がどんな風にクラスの皆に話したのかはわからないが、私は結構な大病ということになっていた。どうやら、もはや病気の私のために心を一つにしようという雰囲気になったらしい。結果、私のクラスは金賞をとり、区の大会に学校代表として出場することになった。



 合唱コンクールが終わっても私は学校に行けなかった。クラスメイトに陰口を言われているんじゃないかとか、音楽の先生や担任の先生に怒られるんじゃないかとかネガティブなことしか頭に浮かんでこなかった。そんなある日、いつも連絡帳を持ってきてくれる近所の女の子が意外な人物を連れてきた。クラスでも目立つ存在のちょっと不良っぽい男の子だ。その子とは何回か隣の席になったことがあった。隣でもあまり話をすることはなかったが、彼は忘れものの常習犯だったので、よく教科書を見せてあげていた。どうやらまた彼と隣の席になったらしく、「お前さ、早く学校来いよ。教科書忘れた時俺が困るじゃん」とその一言を言いに来たのだ。私はつい笑ってしまった。そして「うん、もうすぐ行けると思う」と答えていた。



 たぶんあの時、両親も姉も私が病気ではなくて学校をさぼっているということを知っていたんじゃないかなと思う。知っていたけど知らんぷりをしてただ黙って嵐が通り過ぎるのを待っていてくれたんじゃないかなって。



 今学校に行けなくて悩んでいる子供たちに伝えたい。自分が落ち着ける場所でゆっくり飛び立つ準備をしていて大丈夫だよ。無理に急いで飛び立つ必要はないよ、必ずいつか飛び立とうと思えるタイミングがやってくると思うからと。

そして家族の皆さんにもこう伝えたい。どうかいつもと変わらない態度で接してあげてください。わざわざ元気づけることも悩みを聞き出すこともしなくていいから、ただただ温かい場所にいさせてあげてください。本人の中で吹き荒れている嵐が収まるまで、どうぞかくまってあげてくださいと。



 大人になればあの頃の悩みなんて、あの頃出会った怖い同級生なんて、その後の人生においては全然たいしたことないんだっていうことに気づける。だから皆、人生を諦めずにちゃんと大人になってほしい。そして自分達が大人になったら、今度は子供たちに逃げ場を作ってあげてほしい。そんなことを思う一冊だった。是非たくさんの大人に読んでもらいたい。


雨の降る日は学校に行かない (集英社文庫)
相沢 沙呼
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