入選作品 五千円

“信じぬかれる”喜びと、その先にある“信じぬく”幸せ

読んだ本・『えんとつ町のプペル』にしのあきひろ

書いた人・いめぎよれこ

絵本のキャッチコピーでもある『信じぬくんだ。たとえひとりになっても』という言葉は、少年ルビッチが父親に教えてもらった“ホシ”を見付ける方法だ。
えんとつ町は高い崖と煙に覆われて空が見えない。漁師だったルビッチの父は海で“ホシ”を見たことがあるが、町の人は“ホシ”を知らない。
そんな父は“嘘つき”呼ばわりされたまま亡くなる。
この作品は、“ホシ”の存在を信じたいルビッチと、ゴミ人間であるプペルの友情が美しく描かれている。


私には五歳の息子がいるが、驚く程に口達者で、よく“嘘をつく”。行ってない所に行ったと言って見栄を張る嘘から、ただの言い訳まで、実に幅広い。特に手を焼くのが、怒られそうになったときだ。「だって」という枕詞と共に、友達を犠牲にしてでも、支離滅裂な理由をでっちあげて保身に回る。
私はその度に、「何で嘘をつくの!! 」と息子を責め、時に罵倒し、手もあげて、最後はヒステリックな自分を責める。
この悪循環が我が家の日常風景だった。


絵本の中のプペルはゴミからできたゴミ人間で、“臭いバケモノ”として町で嫌われていた。そんなプペルをルビッチは嫌わず、「臭いなー」と笑い、体を洗ってあげた。
けれど、プペルと仲良くすることでルビッチまでもがいじめられそうになったとき、ルビッチは「もう遊ばない」と宣言し、二人は決別する。


ところで、私は息子の嘘に真剣に悩んでいた。嘘が許されると思ってほしくないという教育的理由は勿論あったが、実はそれ以上に、“私自身が嘘つきだから”辛かったのだ。


私はずっと他人に嫌われないように嘘をついてきた。それは母に好かれたくて、自分の気持ちを偽り、母の気持ちを察する癖に始まる。例えば、満腹でも母が悲しむから無理して食べて、後で隠れて吐いたり、母が嫌いだと言えば進んで父の悪口を言ったりした。
社会に出ると上司に好かれるために媚び、嫌いでもない人の愚痴に同調しては、そんな自分を八方美人だと嫌悪した。

私は嘘つきな自分が大嫌いだったから、息子の嘘が許せなかったのだと思う。


絵本の中のプペルは、ルビッチに裏切られたにも関わらず“ホシ”を見せ、“父が嘘つきでないこと”を証明した上に、自分の命を犠牲にしてルビッチに尽くそうとする。ルビッチが「あんなにひどいことをしたのに」と言うと、プペルは答えた。

『かまわないよ。キミがはじめてボクにはなしかけてくれたとき、ボクはなにがあってもキミの味方でいようと決めたんだ』

バケモノだと言って避けず、受け入れてくれたことが、プペルにとって本当に嬉しかったのだろう。一番感動したのがこのセリフなのだが、それは私自身の経験が影響している。


私はある時、気が付いた。息子に対する「何で嘘をつくの!! 」という言葉には、“いつも嘘をつく”という前提があることに。
つまり、私自身が息子を信頼せず、“嘘つき”呼ばわりしていたのだ。
私は反省し、「本当のあなたは嘘つきじゃないよね」という言葉に代えると、息子は涙を溜めて抱きついた。
やっと信じてもらえた喜びと共に、それまでの悲しみも押し寄せてきたのだろう。
息子の姿がプペルと重なり、さらに私自身の幼い記憶にリンクした。


私は小三のときに登校拒否をした。当時の担任教師が怖かったのだが、熱があるという“嘘”はすぐにばれ、一週間で終わった。先生は露骨な差別が好きで、成績の悪い男子に恥をかかせて公開処刑する姿に、私も傷付いた。図工で私の描いた絵を不自然だと指摘されたとき、私も処刑されると予見し絶望した。その時、母は父を連れて学校に行き、「この子の絵を否定しないでほしい」と頼み、私を守ろうとしてくれた。

実は、大人になった私は、自分の“嘘つき”を母のせいにした。母が威圧的で未熟だったから、私は周囲に迎合して自分を欺くようになり、自己肯定感の低い人間として、人間関係に苦労しているのだと。
それが、絵本をきっかけに、勘違いだと気付いた。
私もプペルと同じ、悲しみだけでなく喜びも与えられていたのだ。
母は小三の時、嘘をついて学校を休もうとした私を責めずにそのままを受け入れてくれたじゃないか。

プペルのセリフに感動したのは、母が私を信じてくれたことを思い出せたからであり、息子の気持ちに寄り添えたと実感したからだ。


しかし、こうも思う。プペルにとって本当に幸せだったのは、ルビッチに信じてもらったことより、ルビッチを信じぬけたことなのではないか、と。
なぜなら、私が息子に、「本当のあなたは嘘つきじゃないよね」と言ったとき、嬉しくて泣いたのは息子だけじゃないからだ。
固い殻が溶けて、柔らかい心が生まれるように、温かくて優しい気持ちになれたのは、むしろ私の方だった。
誰かに信じられることと同じくらい、誰かを信じることが幸せなのだと初めて知った瞬間。


目の前の嘘に惑われてはいけない。
“信じぬくこと”の尊さを、プペルとルビッチと母と息子が教えてくれた。


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