入選作品 五千円

それでも僕が愛する理由

読んだ本・『ドラゴンクエスト3 そして伝説へ…公式ガイドブック』エニックス

書いた人・ヒカミリュージ

 今から30年前の2月、ドラゴンクエスト3が発売されました。社会現象となったため、当時のニュースを覚えている方も多いと思います。
 私が8歳の時、訳あって不在の父から不意に送られてきた小包を開けた時、初めてドラゴンクエスト3と出会いました。
 今思えば、父母の間には様々な事情や思いがあったと思います。後悔か反省、それとも全く別の感情なのか。それは分かりません。
 私はただ無邪気に、話題のゲームソフトを入手したことを喜んでいました。
 しかし、過去に発売された2作品を遊んだ経験がなかったため、ゲームに対する予備知識がなく、最初から楽しむことはできませんでした。
 当時の技術ではキャラクターの絵や景色を単純化して表現することしかできなかったため、画面の中の世界は、荒っぽい絵で描かれた世界にしか見えませんでした。
 街を歩いても、外の世界を旅しても、その行為の面白さを実感できずにいましたが、1冊の攻略本を手に入れた私は、夢中になって読み始めました。
 ゲームの中では文字だけで表現されていた武器や防具に緻密なイラストと説明が添えられ、共感する能力が貧弱だった私は、それを食い入るように読むことで、ドラゴンクエストの世界観に馴染むことができたのです。

 本の中では、重厚な鎧兜に身を包んだ戦士、仲間の傷を癒す僧侶、杖を手に火炎を放つ魔法使いなど、様々な人物が活躍しており、画面に出てくる1行だけのメッセージの中には、数多くの活躍が含まれていることを知りました。

 地図を鉛筆でなぞり、まだ訪れていない場所に思いをめぐらせると、ふと、あることに気づきました。
 主人公は架空の大陸にある自国を出発後、長い旅を経て半島国家に到着します。その後、山岳の村や歓楽街を経て、巨大な砂漠を踏破する頃、ピラミッドを探索することになります。
 この頃、ゲームの進め方に慣れている同級生達は、すでにピラミッドの探索を追え、あることに気づいていました。
 ピラミッドがあり、ジパングと呼ばれる島がある。今回のドラクエは地球を旅しているんだ。と、皆が騒ぎ立てました。
 その時の私が皆の会話に入るためには、攻略本から得た知識は不可欠でした。あの1冊が無ければ、他者との適切なコミュニケーションの取り方を学ぶこともできなかったことでしょう。

 それから時が経ち、熱心に読んでいた攻略本は親に捨てられ、およそ10年が経過しました。しかし、テレビゲームを卒業することはできませんでした。
 視力や姿勢の悪化など、テレビゲームは有害な物として世間に叩かれ続けてきましたが、私にとっての攻略本は、小学校に馴染むための教本でした。
 所属する学校は変わっても、子供の頃に馴染んだ人付き合いの方法は変えられず、当時の友人達とは、ゲームが好きと言う共通点で知り合いました。
 そして久しぶりに、古本屋で当時の攻略本を買い戻しました。誰が持っていたのか分かりませんが、それは比較的綺麗で、鉛筆で書いたメモは何一つ残っていませんでした。
 そのことに寂しさを感じつつも、私は再びドラクエ3を始めました。当時は中途半端に終わっていた冒険が再び始まり、画面の中で16歳の誕生日を迎えた主人公は、18歳を越えて大人になりつつある当時の少年と共に、再び一歩を踏み出しました。
 攻略本のページをめくりながら、共に草原を抜け、山岳地帯の村を訪れ、広大な砂漠を踏破し、扉を開けて未知の世界へ歩み始めました。
 久しぶりに始めた冒険は、懐かしさもあってか、友人の間でも話題になり、まるで同窓会のような気持ちで、共に画面を見つめながら遊んだこともあります。
 小学生の頃には実現できなかった遊び方をようやく実現し、冒険は話の核心部へと近づきます。私はその時、読んでいた攻略本を手放しました。
 ここからは、本来の遊び方に戻りたい。そう、思ったのです。もう、楽しみ方も分からずに右往左往していた時代ではありません。予備知識を持たず、本当の意味で未知の世界へと足を踏み入れ、長い年月を経て、ようやく、小学校時代から始めた遊びを完結させることができました。

 そして今再び、攻略本のページをめくりました。この本の各ページは、思い出が記載されたアルバムです。それを見るたびに私は、また童心に返るのです。


ドラゴンクエスト3 そして伝説へ…公式ガイドブック

エニックス
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