奨励作品 一万円

肉の缶詰と私

読んだ本・『肉の缶詰』青木U平 他

書いた人・松岡 青希(MATUOKA SEIKI)

肉の缶詰、それは…13名の漫画家の読み切りで構成された肉の缶詰のマンガ。
肉の缶詰、それは…13名の漫画家達の肉と缶詰愛に溢れているマンガ。
肉の缶詰、それは…私にこの先の『生きる意味・目標』を示してくれたマンガ。

今回私が取り上げたい一冊は『肉の缶詰』というよみきりマンガである。
このマンガは13名の漫画家が「肉、特に缶詰」というジャンルに絞り、
「肉への愛」「缶詰への愛」を詰め込んだオムニバス作品である。
この漫画の良いところはありふれている「ささやかな日常感」と
随所に盛り込まれた「肉の缶詰のシズル感」である。
そしてこれら2つの魅力に後押しされ今の私は成り立っている。
言うなれば、空っぽになってしまった私に再び「生きてみたい」と思わせてくれた
漫画である。

ー2016年2月26日ー
私はホテルの6階から飛び降りた。
飛び降りた理由は…
「うまくいかない人生を終わらせたい」とかになるのだろう。
奇跡的に一命は取り留めたらしい。
骨折が20箇所以上、脱臼、脊椎の神経断絶…特に足に関係ある神経を
切ってしまったらしい。医者からは「よく生きてたね」と言われた。
手術をしたが、全て元通りとはならなかった。私は「障がい者」の身となった。
一生寝たきり、筋力の衰えで他人の力を借りなければ
自ら寝返りをすることもできない…
命は助かったが、人生は終わったようなものだった。
そんな状況のとき、私は「肉の缶詰」と出会った。

私の入院生活はリハビリの日々だった。
理学療法士の勧めもあり、リハビリの一環として私は本を読むことした。
いきなり活字では疲れるだろうと、担当看護師が好意で数冊のを貸して
くれた。その中の一冊に「肉の缶詰」はあった。
元来食べることが好きな私は自然とこの本に惹かれた。
オムニバス形式の短編マンガ。1話目は、大好きな映画を観ながら缶詰をアテに
晩酌を楽しむ男の物語。倹約家な男が、缶詰には大枚叩くストーリー。
2話目は、夫婦の物語。料理上手な旦那さんが肉の缶詰を使った創作料理で
奥さんの舌を満足させるストーリー…と途中で私は読むのをやめてしまった。
私には「刺激」が強すぎる内容だったからである。
晩酌・楽しげな夫婦生活・美味しそうな缶詰料理・ささやかな幸せ…
漫画ではあるが、嫌でも現実と比べてしまう自分がいた。
自分にとってこの「望めば誰でも手に入るであろうささやかな幸せ」
というテーマは痛すぎた。
私は読むのが痛すぎて読むのをやめた。

病院では時として学生が一定期間研修でリハビリに立ち会うことがある。
私のリハビリにも研修学生がついた。彼(以後T)は「学生」だったが、
年齢は30代後半だった。Tは元々、某スポーツ選手の専属トレーナーをしていた
らしい。しかし、選手の引退を機に第2の人生として理学療法士を目指している
らしかった。そのTの言葉が忘れられない。
Tは談笑をしながらこんなことを言った。
「松岡さん、私思うんですけどね、人生行き詰まったら真逆のことをしてみると
いいと思うんです。例えば、今まで嫌いで話もしなかったような人に話かけて
みる・向き合ってみる…とかね。
だって、今まで自分が良いという方向で行き詰まってしまったんでしょ。
だから、敢えてしてこなかったことをしてみたら先がみえるってことも
あると思うんですよ。
最悪、失敗したとしても今以上行き詰まることもないでしょう。
行き詰まったら逆!覚えておいてくださいね 笑。」
行き詰まったら逆。この言葉は当時の私には凄く刺さった。
現状の逆…入院してからの逆…

その日の夜、途中でやめた「肉の缶詰」をもう一度読み返してみた。
羨ましさはあったが、以前とは違う目線が私にはあった。
そう、逆の発想である。
今までは、書いてある内容と自分を「比べる」読み方をしていたのだが、
ふと「近づける」読み方になっていた。
この本に描いてあるささやかな日常に近づけるためにはどうしたらよいか…
そんな思考に変わったのを覚えている。何かパッと開けた瞬間だった。
その日以降の私のリハビリに対する意欲は劇的に変わった。
理学療法士この「肉の缶詰目標」の話をしてみたところ、
思いのほか共感を示してくれた。
ー肉の缶詰を食らうーこれが私の目標となった。

すると、不思議なことが起こり始めた。
寝返りが徐々にうてるようになった。
動かなかったカラダが徐々に動かせるようになり、
クルマ椅子に乗ることができるようになった。
ちょっとずつだがささやかな日常を感じるようになっていった。

人間生きていれば「底」というのを味わうことがあると思う。
私は「底」の時に「肉の缶詰」と出会った。
そして、「行き詰まったら逆」という発想を得ることが出来た。
おかげで今では身の回りのことは一通りできるまでになった。
私に生きる希望を与えてくれた「肉の缶詰」是非一度読んでいただきたい。


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